晩年のニレジハージの未発表録音(1972-85)
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(C)Yoshimasa Hatano |
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復帰後のコンサート, その他
1)
Solo concert at the century club, CA, 12/17/1972
2)
Solo concert at the old first church, CA, 5/6/1973
3)
Solo concert at Forest Hill Club Hose, CA, 5/24/1973
4)
Solo concert at Ronald F. Antonioli's house, CA, 7/29/1973
5)
Solo concert at Ronald F. Antonioli's house, CA, 4/30/1978
6)
Solo Recitals, Takasaki Art Center College, 5/31/1980, 6/1/1980, Japan
7)
Solo Recitals, Gunma Kenmin Hall (1/10/82), Hotel New Ohtani (1/12/82) and Daiichi-seimei Hall (1/21/82), Japan
8) Private or unpublished studio recordings
ニレジハージは、1972年の復帰後、上記のコンサートを行っており、そのほとんどは録音されている。その音源の中で状態の良いものは、M&Aを通じて9月に発売された(トラックリスト)だが、録音時間、録音の質の関係から、選から漏れた音源も少なくない。このページでは、そういった未発表音源を中心に少しずつ紹介していく。いずれも、著作権は国際ニレジハージ財団に帰属する。
1)
Solo concert at the century club, CA, 12/17/1972
より高音質のCDを2017年4月に発売のため削除。
2) Solo concert at the Old first church, CA, 5/6/1973
リスト、「二つの伝説」よ
「小鳥に説教するパオロの聖フランシス」
「波間を渡るバオロの聖フランシス」
(5/6/1973, Old first church)
Desmarより発表された有名な録音で、ピアノ演奏史に残る凄まじい演奏。M&AのCDに収録されたものはイコライザ処理されているため、このトラックと印象が異なっている。解説はこちらを参照。
3)
Solo concert at Forest Hill Club Hose, CA, 5/24/1973
リスト、葬送行進曲 (1867)(Funeral March "In memory of Maximillian, Emperor of Mexico"(Marche funebre (In magnis et voluisse sat est))
ニレジハージのリスト演奏の特徴がよく出た演奏である。冒頭の重厚なオクターヴと、美しい響きを強調した中間部の対比。そして、緊張感を保持したまま、遅
いテンポのままで音楽が悠然と進行する。音数は少ないのだが、音の一つ一つに内在するエネルギーの強さは比類がない。彼の巨大な音楽性を記録することに成
功した録音の一つだ。
リスト、「哀れならずや」
ニレジハージが好んで演奏した演目の一つで、Desmar、東芝に録音が残っている。高崎で演奏された際、ニレジハージは邦題を「血のような涙」と訳させたという。
リスト、「悲しみのゴンドラ」
冒頭部、約27秒間が欠落している。
ブラームス、狂詩曲(119-4)
4)
Solo concert at Ronald F. Antonioli's house, CA, 7/29/1973
リスト、「ワレンシュタットの湖で」Au lac De Wallenstadt
リスト、「巡礼の年 第2年 第2番「もの思いに沈む人」Il Penseroso
リスト、「巡礼の年 第2年 第7番「ダンテを読んで/ソナタ風幻想曲」(「ダンテ・ソナタ」)
(7/29/1973, R. Anotinoli's)
「ダ
ンテ・ソナタ」は、若い頃からニレジハージが得意とした作品で、1930年代にヨーロッパのとある街で弾いた際には、数日前に弾いたホロヴィッツよりも、
「作品の精神を捉えた」と評価されたという。この録音は、1973年7月29日、Ronald
Antonioli宅で行われた演奏会からのものである。ミスタッチは多いのだが、5年後に酩酊しながらスタジオでRobert
Wahlbergと録音したものよりも状態が良い。1973年の演奏は、後に、ベンコーが、"One of the great recordings
of pianistic
history"と形容したものである。その評価の是非はさておいて、リスト本人の解釈を想像させてくれる、スケールの大きな演奏である。特に9:30分
を過ぎたあたりの表現の豊かさはニレジハージならではのもの。
5)
Solo concert at Ronald F. Antonioli's house, CA, 4/30/1978
リスト、「ファウスト交響曲」より第二楽章「グレッチェン」(16.9MB)
(4/30/1978, Ronald Antonioli's home)
ニレジハージは1978年4月30日、友人のRonald
Antonioli邸で、50分以上に渡って、リストの「ファウスト交響曲」の自作編曲版を弾いた。この録音は、Antonioli氏によるプライヴェー
ト録音であるが、音のびりつきはあるものの、全体の音の鮮明度は高い。この時の演奏は、ニレジハージが、その情念を爆発させたものだった。場にいた聴衆ら
は、その迫力に圧倒されたという。たしかに、第一楽章「ファウスト」などは、巨大な溶岩の塊が迫ってくるような演奏だ。しかし、この時期は、75歳という
年齢に加え、長期間のブランクも手伝って、自身の巨大な内面の表出を支えるべき運指技術の衰えが進みすぎていた。速いパッセージが弾けず、まるでカオスの
ようになってしまった箇所も多くある。特に、第一楽章「ファウスト」、第三楽章「メフィスト」でそれが顕著で、リストというよりは、前衛音楽のようにさえ
聴こえる。
しかし、ここにあげた長大な第二楽章「グレッチェン(グレートヒェン)」は、技倆上のハードルが高くないこともあって、晩年のニレジハージならでは美しい
演奏となった。魅了される瞬間が幾度もある。前半の、儚さを感じさせるような歌、後半部のロマンの極みのような豊麗な表現が聴きもの。
8) Private or unpublished studio recordings
ワーグナー、楽劇「トリスタンとイゾルデ」より「愛の死」
(1978年、カナダTVのドキュメンタリー用に収録されたアウトトラックより)
この曲の名演奏というと、フルトヴェングラー&フィルハーモニア管弦楽団とフラグスタートのものによるものが有名である。そこでは全セクションが法悦の極
みにあるような音色を奏でていた。この演奏でも、そのような音楽を聴くことができる。晩年ということで、技術面では相当な荒れがあり、その意味では万人向
けではない。一方で、ピアノという殻を打ち破るような、表出力の凄まじいまでの強さは感じられる。「エロスとタナトスの融合」をめざした曲の精神を掴んで
いるのは間違いない。彼には、もう一つ、「愛の死」の録音があるが、この78年録音の方が技術的な状態が若干良い。